2025.08.01
チェロ・黒川真洋さん(2025年4月~6月)

チェロ・黒川真洋さん(使用楽器Cat.no.33 ロレンツォ・マルキ 1983年製)の活動リポートです。
活動報告:
4月にはこの劇場で初めての公演(プレミエ)の演目のNormaと、再演のビゼーの真珠取りという2作品にのさせていただきました。Normaは典型的なイタリアオペラで、とにかく歌手には大変レベルが高い作品です。イタリアオペラは観客にとても人気があるので満席の会場が盛大な拍手を歌手陣に送るためいつも非常に盛り上がります、歌手も素晴らしくいい回でした。真珠取りは再演でしたがこの演出を手がけているのは映画Perfect Daysでも注目を浴びたWim wendersさんです。彼の撮った作品はどれも素敵ですが、今回私は弾いている側だったので観られず残念でした。最終公演のカーテンコールで彼が壇上し声援を浴びていたのでいい演出だったんだろうと思います。このようにここの劇場では名のある方の演出などもあり素敵な取り組みだなと思います。
他には自分の練習に時間を費やし、自分のピアニストと何度もリハーサルをしました。また友人の室内楽のレッスンに付き添い、ベルリンフィルのビオラ奏者から指導をいただく機会がありました。とても知的で尚且つ音楽的なセンスのある助言とともに一時間のレッスンの時間は何倍にも感じるほどに有意義な時間で、自分に足りない課題がとてもはっきりしました。自分は常にネガティブな思考に走りやすいものの、否定的なだけではなくモチベーションになるポジティブな時間が非常に尊く、こういう時間が改めて都度必要だなと感じました。
5月には1日中フルの休みがありませんでした。意図的に自分で休みを作らないようにしていたんだと思います。新しくピアノトリオの室内楽を組めることになりそのリハーサルや、キャンセルにはなりましたがピアノとチェロのデュオコンサートのための練習、オーディションも2回とオペラもまた2作品乗ることになっていたので盛り沢山でした。オーディションは久しぶりで緊張による震えが再発し、いくらメンタルトレーニングをしてもすぐには治らないことは分かってながらも、上手くいかないことへの自分への劣等感に押しつぶされそうでした。それでもやらなければいけないことがあることに助けられ、自分のモチベーションを再構築させていきました。
オペラではグノーのロメオとジュリエット、ヴェルディのIl Trovatoreでした。今まで知らなかったですがロメオとジュリエットにチェロのカルテットがソロで演奏される場所があり、その部分が本当に綺麗でどうしても弾きたかったのでリハーサルの日に早く行き、2プルートに座って一番下の重要な音を勝ち取りました。とても緊張しましたが大好きなチェロのメンバーと弾けて最高に幸せでした。また有名なソプラノ、アンナネトレプコがIl Trovatoreでメインを歌い上げました。さすが世界のトップ、公演はすぐに完売。政治的な問題もありますがやはり彼女は歌手としては右に出る者はいません。彼女の声はとても壮大で、でも強すぎるのではなくよく響き、ビブラートも邪魔じゃない。そんな技術のある人はなかなかいないのでとても勉強になりました。有名なアリアではちょうどチェロの場所の上に彼女が来ますが自分のチェロに共鳴していました。とにかく素晴らしかったです。
6月にはチェロの同僚に声をかけてレッスンをお願いしました。彼女の的確な助言や熱心さに圧倒されて非常に刺激的な時間でした。それにオーディションぶりに自分の演奏を披露したので緊張もしました。このような機会があってよかったです。他にはアカデミーの写真を新しく撮り直す日もあり色んなプロジェクトがあるのでなかなか会えないアカデミー生もいる中でこのように楽器を持って皆んなと集まって写真を楽しく撮れたのはいい思い出でした。私は彼らが優しくとて
も大好きです。
また今月の大イベントはオーケストラのツアーでウィーンに二泊三日で行きました。シェフのThielemannとわたしが憧れる歌手のErin Morleyと一緒にシュトラウスのリート作品をオーケストラに編曲したものとブルックナーの6番を持って2回の公演のために私たちはウィーンへ飛びました。
あのカルロスクライバー、カールベーム、カラヤン、そして小澤先生など数々の巨匠たちがこの場所、Musikverein(楽友協会)で演奏しました。テレビで観るよりもさらに大きく、キラキラとした、でも舞台に立つと異常な緊張感と重さがありました。誰もがここに立つ事を夢見ていると思いますが私もそのうちの一人でした。いつもウィーンフィルがニューイヤーにここで演奏しているのを小さい頃に見ていたので、到着した時には、テレビで見たことある、これだ、と興奮しました。裏口から中に入るとマーラーなどの作曲家の銅像が並んでおり、ああとても厳かな場所だ、と構えますが舞台はさらに緊張感を高めました。ベルリンの劇場では頻繁に満席で、カーテンコールでもいつも感動するほどに客席の歓声を浴びます。これに慣れてきたところでしたが、ここMusikvereinでティーレマンということで今回も立見席もフルでチケットは売れていました。舞台に入っていくと暖かな拍手がなっており、すぐに鳥肌が立ちました。今まで味わったことのない厳かな緊張感と雰囲気と空気と、何故かは分かりませんが席に着いた頃には私の足は震えていました。この会場は普通ではない、偉大な音楽家たちが残したこの空気が私をそのようにさせている、とすぐに感じました。どちらの日もコンサートは大盛況に終わり、きっとこの経験は私の人生を変えたポイントだったと思います。今回のツアーで一緒に回ったチェロの同僚とも元々優しくしていただいていましたがさらに距離が縮まりいい雰囲気になったと実感しています。大好きなチェロのメンバー以外にも他の楽器の方、さらにはコンマスとも話せる機会があったので、このツアーに乗せていただけて感謝でいっぱいです。また近々この会場で必ず、演奏します。
【プロフィールはこちら】
黒川真洋